依頼受注
ある筋から依頼を受けましてね。
駅の掲示板にXYZと書かれたとか、そんな感じの依頼ではなく、親戚の女児から頼まれました。
「カービィの吉野家のやつ欲しい」
女性からの頼みは断れないで有名な私ですから、そこは呼吸を止めて1秒あなた真剣の目をして「よし、おっちゃんに任せとけ」といい、その足で吉野家に向かいましたよ。
カービィの吉野家のやつ、とは
まずはターゲットの確認である。
敵を知るにはまず敵からという、当たり前のことを考えながら、吉野家のwebページを見てみる。
なるほど。
期間限定で、吉野家で特別な並盛、通称「カービィ盛」を頼むとカービィのフィギュアがもらえるらしい。
親戚の女児が欲しているのは牛丼でもサラダでもなく、おそらくこのカービィのフィギュア、ということなんだろう。
9月3日〜9月30日がキャンペーン期間らしい。
今日は9月5日。風の噂で聞いたのだが、前回のキャンペーンは人気すぎて即終了したらしい。
それを考えると、始まったばかりとはいえ、すでに終わっている可能性がある。
「一度敵の顔を拝んでみるか」
私はその足で、吉野家へと向かった。
現在、9月5日20時。
張り紙あり
最寄りの吉野家に行ってみると、入り口の自動ドアのガラス戸に大きなポスターが貼ってあった。
ポスターというには余りにもでかい。
でも垂れ幕というのもちょっと違う。
これ、何ていうんですかね?
何て余計なことを考えならがそのピンクのポスターを見た。
吉野家でピンク何てそうそう使われるもんじゃない。
あそこはオレンジと黒しか使われないはずだ。
あとは牛肉の茶色と米の白。
ピンクなんぞが立ち入る隙がないのだ。
そう、このピンクのポスターこそ、カービィ丼の案内だ。
これが貼ってあるということは、まだ少し希望がある。
私はポスターを注視した。
いい年したおっさんが吉野家の店頭でカービィのポスターをまじまじと見ているのは少し恥ずかしい。
いや、これね、知り合いの子供から頼まれちゃって、何て脳内で言い訳のシミュレーションをしながらポスターを見た。
すると小さな張り紙がしてある。
そこにはこう書かれていた。
「本日分は終了しました」
そう、吉野家もばかじゃない。
前回の失敗を糧に、今回は手を打っているようである。
これをみる限りは日毎に個数を決めて展開しているようだ。
この吉野家は24時間営業だ。
リセットするのは0時なのかもしれない。
この吉野家は会社の最寄りなので、通勤前に寄ってみるというのが私が寄れる一番早い時間だ。
ではそうするとしよう。
いつもの時間よりも30分ほど早く出れば牛丼の3杯くら食べられるだろう。
なぜ3杯かって?
このポスターには「おひとり様3杯まで」って書いてあるからさ。
カービィ第二幕
さて、日を改めて、翌日9月6日の午前7時すぎ。
私は会社の最寄り駅を降り立った。
いつも会社に向かう出口とは違う出口から出た。
いつもと違う風景は新鮮さを私の中に吹き込んできた。
なんか、こう、今なら何かできる気がする。
何が?
何もこれもない。
依頼の達成だ。
そう意気揚々と、足取りも軽く昨日の吉野家に向かう。
そこで私は絶望することになる。
昨日見たポスターにまだ張り紙が貼ってある?
「え?もう終了したの?まじ?」
と内心焦りつつ、もう一度よくポスターに貼られた紙をを見てみた。
うん、10時って書いてあるね。
昨日の時点でこれをちゃんと読んでおけば、無駄に早朝早く起きる必要なんてなかった。
だがここで問題がある。
10時と言っても、私は仕事中である。
仕事中に勝手に外出するわけにもいかない。
外に出られるタイミングとしては昼食である。
しかし、昼食どきには一気に利用者が増えるため、昼食どきに入ってしまえばさすがに終了だろう。
少し早めの昼食として許されるのは?
11時半?いや、少し早い。
会社からここまでは10分。12時前にはついておきたいので、11時45分に出れば良い。15分くらいなら不審がられることもないだろう。
よし、作戦決行はイチイチヨンゴーだ。
カービィゲットだぜ
ということで、11時45分に出発した私は少し急足で、というよりも走って吉野家に向かった。
セリヌンティウスを助けるために疾走したメロスのごとく。
街中をカービィ目指して駆け抜けるオッサンの姿があった。
何て暑苦しい。
そして吉野家到着。
カウンター越しにお姉さんに聞いてみる。
ちょっと照れながら「あの・・・カービィ丼、まだありますか?」
お姉さん「はい、まだありますよ」
よし、やった!
「じゃぁ、持ち帰りで3つお願いします」
お姉さん「すいません、あと残り二つしかないんです」
なんと、最後の二つだったのだ。
最大の3杯ゲットできなかったのは残念だったが、二つゲットできたのだ。
喜ばないとバチが当たるってもんだ。
意気揚々と、ピンクのカービィ袋を手に足取りも軽くオフィス街を闊歩するオッサンの姿があった。
蛇足
さて、会社に戻った私は、牛丼を2杯目の前にしながら考えていた。
今日、吉野家に行くまでは牛丼を3杯食べるつもり満々だったのだ、私は。
ところが、運よくというか、運悪くというか、2杯しかゲットできなかった。
私の胃袋は3杯の牛丼を欲しているのだ。
しかし、今目の前にあるのは2杯の牛丼。
この隙間を埋めないと、私の胃袋は寂しさに咽び泣いてしまうかもしれない。
そうして会社のロッカーの中を見ると、ペヤング超大盛りを発見した。
牛丼並の隙間を埋めるには申し分ない。
むしろ、過ぎるくらいだ。
ということで、こんな昼飯を目の前にした私は
カービィのごとく吸い込んでやりました。
これでペヤングビームとか出せるはず。